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「まだまだチップス先生を続けます!」

「まだまだチップス先生を続けます!」

 この新年、何人かの友人に送った挨拶状には、
「私儀、だんだんチップス先生になってきたような気がします。」
といった一文を入れました。
 自分としては、 「生涯、一教師」というモットーを軽く伝えようとしたのですが、書いてから、昔読んだ『チップス先生、さようなら!』(新潮文庫 菊池重三郎訳 昭和61年 第69版)の記憶が、かなりあいまいになっていることに気づき、この度、注意深く読み返してみました。

 かの本は、ジェームス・ヒルトン(1900~54年)が、1934年に発表し、英米などで大好評を博し、後には映画やドラマにもなった作品です。作者が所属したパブリックスクールのリース校で出会った老ハウスマスター(生徒たちと起居をともにする舎監)をモデルにしたという感傷主義に堕さない適度の憂愁をもって描かれている佳篇です。

 チップス先生が一生のほとんどを過ごしたのは、イギリスの架空のパブリックスクール・ブルックフィールド校(以下、ブ校と書きます。)と隣接するウィケット夫人の下宿です。ブ校は二流校としては、立派な学校で、そんな微妙な位置にあったからこそ、チップス先生が採用になったという書き出しが、まず私の琴線に触れました。

 あまり華やかでない先生の一生に、すばらしい輝きを添えたのが、短期間で終わった結婚生活です。先生は48歳のとき、25歳のキャサリン・ブリックスと出会い、結婚しました。ハイキング中、彼女を助けるつもりが、自分が捻挫して助けられたのが、そのきっかけだというのですから、ふるっています。

 誰にも好かれるキャサリンとの結婚生活は、先生に革命的な変化をもたらしました。「彼は生徒から愛情と尊敬と服従を克ち得たいと考えた。そして、どうやら服従だけは願いどおりになった。尊敬もどうやらものにしていた。さて残るは愛情だけだったが、漸くそれが得られるようになったのである。」「彼がいつも失わなかった洒落の分かる感覚が、年齢の円熟味を加えて、突然豊かな花を開いた。」からです。

 ところが悲しいことに、ほどなく先生はすばらしい奥さんとお子さんを同時に亡くしてしまいます。その後の彼は、寮の舎監として、そして引退後も学校のそばにいて、全部の生徒たちを息子として愛しながら、後半生を送ります。「校長事務取り扱い」なる立場になった時期もありましたが、基本的には、引退後も一教師を貫きます。彼のジョークにはみがきがかかり、次第にブ校の人間国宝のようになっていきます。

 1933年11月のある日、仲間にかつがれた少年が先生の下宿を訪れます。彼は、事情を察しますが、訪問を予期していたごとく振る舞い、少年と親密なひとときを過ごします。帰りぎわに、少年は皆がそうしたように、「GOOD-BYE,MR.CHIPS!」と挨拶します。これは、結婚前の最終のデートのときにキャサリンが言ったのと同じ言葉でした。そして、チップス先生がこの世で聞いた最後の言葉となりました。

 昨年4月、自らリース校で学んだ故池田潔氏の「自由と規律」(岩波新書 1949年初版)が再版されました。その120ページで、氏は「数年前(ほんとに数年前です。)英米でベストセラーの一に算えられ」た小説として、 「チップス先生、さようなら」を紹介しています。このブログの初めの方の[  ]内の表現は、池田氏の本から引用したものです。

 チップス先生と旧交を温めたことで、私は、まだまだ教師を続けたり、いつまでも学校と関わろうとする気持を強くしました。

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コメント

ハム先生は、今春よりチップス先生のように成られるそうで、楽しみです。映画での、チップス先生の言葉が、印象に残ります。
「 義務と規律、 誠実、力 」
知識を得る喜び、心と頭の満腹感、ジョーク、ユーモア、を生徒に伝えて下さい。
むかしの生徒より

Dear Samansa
すてきなコメント、ありがとうございます。当面、特に「心と頭の満腹感」をめざして、お嬢さん方に接したいと存じます。

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プロフィール

【ハム先生】
過去には中学校、現在では都内・某私立高校と某女子大学で教鞭をとる。趣味も「日本史」「世界史」…? 歴史・文化・芸術…等々のジャンルで執筆していくよ!

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